医療法人設立の実務と理論

Q.医療法人のM&Aの主要な形態を教えてください。

A.医療法人のM&Aの主要な形態(方法)は、次の通りです。
・合併
・医療法人の出資の譲渡及び役員変更
・事業譲渡(営業譲渡)
・民事再生による事業譲渡(営業譲渡)

1.M&Aの利点
M&Aは、企業再生の方法として活用される機会が増加しています。診療点数のマイナス改定や薬価の低下等、経営環境が厳しい中、医療法人でも、グループ病院として事業を大きくする手法として、M&Aが注目を集めています。
医療法人の場合は、負債が多額でも、一定水準以上の病床の許可数があったり、病院の敷地の利用価値が高かったりすれば、会計数値で表すことのできない価値が認められます。そして、病院事業の拡大において最も大きい制約となるのは許可病床数であることから、他の医療法人を買収するか合併することにより病床数を多くするのは、有効な手段となり得ます。
医療法人のM&Aの利点は、次の通りです。
(1)買収・合併される側の利点
例えば業績が低迷しているような医療法人にとっては、M&Aによる資本注入は経営の改善を図るために検討に値するでしょう。ただし、経営権を譲渡することとなる場合が少なくありません。
そして、清算型のM&Aにおいては、他の医療法人に売却し、事業の引継ぎが行われることになれば、地域住民への医療活動や従業員の雇用を継続できないといったことで悩まなくて済み、また、資産を有効に利用できます。
(2)買収・合併する側の利点
許可病床数や価値の高い不動産等を得られることで、事業を割とスムーズに大きくすることが可能です。清算型M&Aの場合、相場より安い価格での資産の買取りが可能なこともあるようです。
(3)医療法人の債権者の利点
資本注入を受け、優れた経営能力を有する新たな経営者の下で事業が好転することで、医療法人の債権者が債権を回収できる見込みが高まります。

2.合併の形態
医療法人の合併に関しては、社団たる医療法人は社団たる医療法人とだけ、財団たる医療法人は財
団たる医療法人とだけ合併をすることができます(医療法第57条)。社団たる医療法人が財団たる医療
法人と合併をすることは認められていません。医療法人の場合は、会社の場合と違い、法人分割が認
められていません。
(1)社団医療法人
社団医療法人は、総社員の同意があるときは、他の社団医療法人と合併をすることができます。持分の定めのある社団医療法人の場合、その医療法人の持分を取得するという形で合併をします。
(2)財団医療法人
財団医療法人は、合併できる旨が寄附行為に記されている場合にだけ、他の財団医療法人と合併をすることができます。寄附行為に別段の定めがなければ、合併をするには理事の3分の2以上の同意を要しますが、別段の定めがあればこれを要しません。それゆえ、財団医療法人の合併については、先に寄附行為の変更手続きが必要となる可能性もあるといえます。
また、合併の形態は、新設合併と吸収合併のいずれの合併もできますが、いずれの場合も、新設法
人か存続法人は消滅法人のあらゆる権利義務を受け継ぐことになります。
なお、新設合併については、法人設立のための事務手続き(新たに定款か寄附行為を作成すること等)
を再度行わなければなりません。この手続きはそれぞれの医療法人において選ばれた人が共同で行う
ことが必要で煩わしいために、吸収合併の方を選ぶケースが多く見受けられます。